〈プリミティヴィスム〉と〈プリミティヴィズム〉
文化の境界をめぐるダイナミズム

[著者]大久保恭子

アフリカやオセアニアの非西欧の造形物は西洋文化圏においてどのように言説化/視覚化されたのか? マチスやゴーガンら“発見者”であるフランスと、それを受容し、自国のアイデンティティ確立に組み込んだアメリカ。相互の概念のずれを鋭く指摘するなかで、〈プリミティヴィスム〉あるいは〈プリミティヴィズム〉をめぐる言説が、20世紀の美術史の中でいかに形成され、どのような意味を担ってきたかを問う。

[書評]
《日本経済新聞》書評欄、2009年9月20日
《西日本新聞》書評欄、2009年11月8日、評者:浪潟剛氏

[受賞]
第八回木村重信民族藝術学会賞

定価=本体 2,800円+税
2009年7月15日/A5判上製/254頁/ISBN978-4-88303-248-8


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[目次]
 はじめに 9
 序章 変容する言説 ―〈プリミティヴィスム〉と〈プリミティヴィズム〉 17
     1 事件としての発見 17
          フォーヴによる〈黒人アフリカ美術〉の発見 17
          発見をめぐる言説 19
     2 〈プリミティヴィズム〉の誕生と発展 25
          フライの言説 25
          ゴールドウォーターの〈プリミティヴィズム 〉 31
          ヴォリンガーの影響 34
          ルービンの〈プリミティヴィズム〉 38
     3 マチスによるふたつの《ダンス》をめぐる批評の変遷 42
          シチューキンのための《ダンス》 42
          バーンズのための《ダンス》 44
          作品批評におけるふたつの傾向 46
     4 結語 47

第1部 フランスにおける〈プリミティヴィスム〉
 第1章 世紀の転換期におけるマチスと〈プリミティフ〉なるもの 54
     1 マチスの《カルメリーナ》(一九〇三―〇四年) 54
          「優雅さに欠けた、はだかのモデル」 54
          〈裸体〉に求められた両義性 56
          フォーヴたちの裸婦と《カルメリーナ》 59
          マチスと母 61

     2 モローの《サロメ》にみる女性/母性 63
          サロメの表象と原典との違い 63
          アルテミス/ディアナ 66
     3 醜い女の系譜 68
          絵画における醜さという危機 68
          セザンヌの影響 71
          醜い女としての《青いヌード(ビスクラの思い出)》 73
          〈黒人アフリカ〉 76
     4 結語 77
 第2章 漂泊するアイデンティティ ―ゴーガンの場合 82
     1 ブルターニュでのゴーガン 82
          ゴーガンと〈プリミティヴィズム〉 82
          ブルターニュでの活動 86
          ゴーガンをめぐる批評 89
          ゴーガンと〈プリミティフ〉なるもの 91
     2 アルルでのゴーガンとファン・ゴッホ 94
          ファン・ゴッホの〈ジャポニスム〉 94
          《坊主としての自画像》と《自画像(レ・ミゼラブル)》 98
          ゴーガンとクリムトの装飾性 100
     3 プリミティフな世界への旅立ち 104
          タヒチへの移住 104
          《われわれはどこから来たか、われわれは何者か、われわれはどこに行くのか》 107
     4 結語 111

 第3章 文化の境界変動 ―フランスにおける〈プリミティヴィスム〉 116
     1 〈アール・ネーグル〉の同化 116
          〈プリミティヴィスム〉 116
          トロカデロ民族誌博物館 117
          〈アール・ネーグル〉の登場 119
          〈アール・ネーグル〉の浸透 122
     2 〈アール・プリミティフ〉の変貌 125
          〈アール・ネーグル〉から〈アール・プリミティフ〉へ 125
          呼称の変化とその意味 128
     3 〈プリミティヴィスム〉におけるパラダイム・シフト 130
          〈プリミティフ〉なるものをめぐる異化作用 130
          「大地の魔術師」展 134
     4 〈プリミティヴィスム〉とは何か 137
          アイデンティティ不安 137
          三大変革 138
          変動し続ける文化の境界 140
     5 結語 144

第2部 アメリカ合衆国における〈プリミティヴィズム〉

 第1章 ニューヨーク近代美術館と〈二〇世紀モダニズム〉 150
     1 MoMAとバー 150
          MoMAの誕生 150
          バーの提言 152
          〈ホワイト・キューブ〉 153
          モーレイとバウハウスからの影響 156
          教育機関としてのMoMA 158
     2 モダン・アートと〈プリミティヴ・アート〉 161
          ダーノンコートの登場 161
          展示をめぐるダーノンコートの思想 163
          ルービンの「二〇世紀美術におけるプリミティヴィズム
          ―『部族的』なるものと 『モダン』なるものとの親縁性―」展 166
          歴史的必然としてのモダン・アート 169
     3 結語 172
 第2章 アメリカン・アイデンティティと〈プリミティヴィズム〉 177

     1 MoMA開設以前のモダン・アートをめぐる状況 177
          二〇世紀初頭のアメリカ合衆国 177
          フォト=セセッション 179
          モダン・アートへの反応 180
          291での〈プリミティヴ・アート〉の展示 182
          「アーモリー・ショー」 185
     2 MoMAの言説を取り巻く環境 189
          差異と同一性 189
          MoMAの〈プリミティヴィズム〉への批判 191
     3 アメリカ的芸術と国際的芸術 194
          アメリカン・アイデンティティ 194
          芸術と政治 195
          MoMAとホイットニー美術館 197
     4 結語 200

 終章 名づけ得ざるもの 207
     ケ・ブランリー美術館 207
     名称の変転 209
     ケ・ブランリー美術館の展示 211
     ポストコロニアルの議論 217
     可能性と疑問 220
     「接触領域」としての美術館 222

 あとがき 229
 索引 1
 参考文献 11
 図版出典 20


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