大正文化 帝国のユートピア
世界史の転換期と大衆消費社会の形成

[著者]竹村民郎

近代日本初の大量消費社会の萌芽的形成、大衆文化の登場、デモクラシーと軍国主義の交錯する大正時代=帝国のユートピアを、政治・経済・文化・生活の領域にわたってあざやかに再現し、現代への連続・非連続性の位相をあきらかにする。

定価=本体 2,500円+税
2004年2月20日/A5判上製/296頁/ISBN978-4-88303-133-7

 


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[目次]
謝辞 3
まえがき 11

第1章  ある大正人の一日 大正九年五月 17

大正九年五月の家庭生活/新聞の画期的発展/戦争の余煙/不況の嵐/市電の停留所で/ラッシュアワーの背景/高橋財政の破綻/十二時の午砲/消費の殿堂・三越/大正時代の洗濯/日本婦人の家事労働/映画とオペラの都/大正九年の当たり狂言/ケェーオスの街東京

第2章  巨大都市東京の誕生 39

1  東京大正博覧会 40
博覧会の開幕/未来を計画する/工業化と人口革命/工業国への離陸/都市人口の発展/日本再開発運動
2  薩長内閣から政党へ 48
護憲運動と大正政変/憲政擁護・閥族打破
3  大東京建設計画 52
大東京建設の新しいプラン/二人の実業家/金融王の執念/東京湾埋立計画/海から掬った金
4  夜の開発 58
水主火従時代への口火/都市の新しい光/第三の「夜の発展期」/大東京の交通網 

第3章  成金の輩出 65

1  イノベーション 66
第一次大戦とイノベーション/国鉄の危機/丹那トンネル着工/大事故の続出/魔のトンネルへの挑戦/自動連結機の採用/英仏の鉄道技術 
2  新しき人間類型 74
カルピスは初恋の味/カルピス成功の基礎/服装革命の武器/ミシン業界のイノベーター/アタチンと自転車用ランプ/イノベーター群像と財閥  
3  成金と米 82
成金景気のひろがり/三大船成金/成金時代の生活/メイド・イン・ジャパンの由来/驚異的なインフレ時代/米騒動と成金襲撃/国民のギリギリの要求/日本リベラリズムの弱点

第4章  大量消費型の社会 91

1  大衆社会の成立に向かって 92
大量消費時代の到来/サラリーマン社会の形成/充実した消費生活/甲子園野球のルーツ/宝塚歌劇とソーライス/デパー卜の「土足入場」/大衆社会に向かって  
2  衣食住の合理化 99
着物から洋服へ/洋装への反発/女性の職業参加/制服とアッパッパ/パン食の普及/大正の三大洋食/カフェの大衆化/低い食肉消費量/最大の社会問題/文化住宅とモダンリビング
3  道徳としての統計 108
大衆的な人間/管理社会の誕生/ハウツーものの大流行/第一回国勢調査/地下鉄の生みの親/統計の価値

第5章  大正文化の成立 117

1  文化の商品化 118
文化の商品化/秘訣は三分のハイカラ性/大衆文化の精神/スター第一号/ラジオ時代の開幕/中立性という名の権力追随/明治文化を代表する漱石/大衆文化と教養主義/日本文化の脱アジア的性格   
2  性の扱われ方 128
大正期の性意識/遊廓の実態/日本ムスメの出生地/荷風と夢二/もっとも屈辱的な公娼制度/洲崎遊廓事件/救世軍対三業組合/雑誌『廓清』の栄光
3  自由画の周辺 138
大正文化のメッカ/文士村成立の背景/山本鼎の自由画数育/自由そのものを教育する/自由画運動の波紋/農民と芸術を結びつける/ユートピア的な地域主義/リベラリズムと皇室中心主義/国家の枠内にとりこまれる

第6章  時代としての大正 149

1  主婦が潜水艦に乗った日 150
カルチュアセンター大正版/タンクと婦人見学団/世界初の女性潜水艦搭乗ルポ/軍部の大サービス/国防国家への道/在郷軍人と女性の役割/しくまれた社会見学/服従と順応
2  軍服を着てストをした労働者 157
未知の労勧運動/軍服を着て対抗する/真の忠君愛国の士/デモクラシーの悲劇/農村に根をはる軍国思想/在郷軍人会除名は家門の恥/震災がもたらした不安/朝鮮人の虐殺 

第7章  時代区分としての大正 167

1  大正という時代をどうみるか 168
「大正デモクラシー期」をめぐって/大正デモクラシーの過大評価/荒正人の提言/「一九一〇年代―一九三〇年代」
2  世界史の転換期としての一九一〇年代 173
一九一〇年代研究の課題/日露戦争と植民地公娼制度/大連における公娼制度/からゆきさんの誤ったイメージ/棄民としてのからゆきさん/大連における廃娼運動/廓清会の創設/植民地廃娼運動の限界/女性からみた海外の出稼ぎ女性たち/男性上位社会日本に蔓延する性病/漱石『満韓ところどころ』/アンドレ・ジイド『コンゴ紀行』/世界戦争の時代
3  世界史の画期としての一九二〇年代 192
戦後としての一九二〇年代/戦後体験なき日本社会/ラッセルが見た日本/世界のレベルに立つ日本文化論/〈一九二〇年代〉ブームの批判的継承/都市文化とモダニズム/二十世紀の精神的不安/都市とフォーディズム
4  国家総動員体制へと向かう一九三〇年代 204
世界大恐慌と産業合理化運動/経営技術官僚の指導性/上杉愼吉の国体論/イタリア「ファシズム」の思想体系/「白人専制」と後進帝国主義/天皇主義サンディカリズム/北一輝と中国革命/革命的大帝国主義/北一輝の国家改造計画/革新官僚岸信介と大東亜共栄圏

補 論  文化環境としての郊外の成立 223

  補論によせて 224

1  ユートピアとしての田園都市 226
多様な都市モデルの提起/田園都市と花園農村/日本古来の田園趣味の定着/「郊外生活」にみる理想の田園都市/東京市郊外の開発と文士村/阪神電鉄と『市外居住のすゝめ』/富豪村芦屋の繁栄/交通機関の発達と阪神モダニズムの興盛/ゆとりある美しい居住空間と園芸趣味
2  レジャーとしての園芸 237
改造された田園の新色彩/園芸趣味の普及と郷土研究/参加型レジャー活動への発展
3  マルチカルチャー社会の端緒的成立 244
マリン・スポーツ/六甲山のリゾート開発/風景写真の流行/郊外生活における新しい女性の役割/消費活動の拡大と家庭会/マルチカルチャー社会の萌芽/交通文化圏の形成
むすび 253

あとがき 255
参考文献 258
大正文化史年表 265
人名索引 285


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