体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相

言説政治・社会実践・生活世界

[編]名和克郎

多民族・多言語・多宗教・多文化性を前提とした連邦民主共和制に向けた転換期のネパールを生きる人びとの歩み、その主張と実践がおりなす布置を「包摂」を梃子に明らかにすると同時に、「包摂」をめぐる現象を民族誌的状況(生活世界)の中に位置付け、「統合」から「包摂」へと転換した「民主化」のいまを描きだす。

定価=本体 6,300円+税
2017年3月17日A5判上製/592頁/ISBN978-4-88303- 433-8


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[目次]

はじめに/名和克郎  ii

凡例  iv

序章 体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相――言説政治・社会実践・生活世界/名和克郎  1
   I  本書の企図  2
   II  近現代ネパール国家と住民  5
   III  ネパールにおける「包摂」  12
   IV  本書の構成  18

第1章 近現代ネパールにおける国家による人々の範疇化とその論理の変遷/名和克郎  35
   I  はじめに  36
   II 1854 年ムルキ・アイン―国家単位でのカースト的ヒエラルヒーの設定  39
   III  パンチャーヤット時代―少数民族政策の欠如  50
   IV 1990 年憲法―民主化とマイノリティ問題の表面化  56
   V 1990 年憲法下における出自に基づくマイノリティの運動と政府の対応  61
   VI  マオイストの主張―様々な「解放」への戦い  65 / VII 2007 年暫定憲法―集団的多様性と「包摂」  68
   VIII 2015 年憲法へ  71
   IX  おわりに  77

第2章 ネパールの「カースト/民族」人口と「母語」人口――国勢調査と時代/石井溥  89
   I  はじめに  90
   II  近現代ネパールの国家形成、国民形成と国勢調査 90
   III  国勢調査の手引き書にみる 「ジャート」「ジャーティ」「ジャナジャーティ」  95
   IV 1991 年、 2001 年、 2011 年の国勢調査結果の「カースト/民族」集計比較  98
   V  言語(母語)人口と「カースト/民族」 108
   VI  結論  115
   表 1 〜 12 123

第3章 国家的変動への下からの接続――カドギのカースト表象の展開から/中川加奈子  131
   I  はじめに  132
   II  先行研究  132
   III  カドギたちによる運動の展開  136
   IV  新たな社会環境への接続  146
   V NKSS の役割の変化 155
   VI  おわりに  161

第4章 ガンダルバをめぐる排除/包摂――楽師カースト・ガイネから出稼ぎ者ラフレへ/森本泉  165
   I  はじめに  166
   II  排除/包摂をめぐって ダリットと移民  169
   III  ガンダルバをめぐる変化―生業とアイデンティティ  173
   IV  グローバル化と社会空間の変容―アイルランドに渡った兄弟の事例  182
   V  おわりに  191

第5章 ネパール先住民チェパン社会における「実利的民主化」と新たな分断
――包摂型開発、キリスト教入信、商店経営参入の経験/橘健一  199
   I  はじめに  200
   II  ネパール先住民チェパンと 2000 年以降の山村社会の変化  201
   III  社会の変化と新たな言説の広がり  205
   IV  包摂型開発の成功  209
   V  キリスト教への入信の進展  220
   VI  バザールの商店経営への参入  226
   VII  実利的民主化と新たな社会的分断  228

第6章 何に包摂されるのか?
――ポスト紛争期のネパールにおけるマデシとタルーの民族自治要求運動をめぐって/藤倉達郎  233
   I  はじめに  234
   II  マデシ自治州運動  236
   III  タルー自治州運動 244
   IV  結びにかえて  251

第7章 そこに「女」はいたか――ネパール民主化の道程の一断面/佐藤斉華  257
   I  はじめに  258
   II  女性による/についての/のための言説  259
   III  ネパール女性をめぐる諸言説―評価  279
   IV  おわりに  286

第8章 テーマ・コミュニティにおける「排除」の経験と「包摂」への取り組み
――人身売買サバイバーの当事者団体を事例に/田中雅子  297
   I  はじめに  298
   II  社会的スティグマを抱える人びとにとっての当事者団体  300
   III  ネパールにおける人身売買  306
   IV  人身売買サバイバーの当事者団体シャクティ・サムハ  311
   V  人身売買の被害に遭ったサバイバーが経験した排除  314
   VI  当事者団体としての包摂の実践 323
   VI  結論―当事者団体による活動の到達点と課題  328
   VII  おわりに  330

第 9 章 ストリート・チルドレンの「包摂」とローカルな実践――ネパール、カトマンドゥの事例から/高田洋平  335
   I  はじめに  336
   II  子ども、日常的実践、ストリート空間  339
   III カトマンドゥのストリート空間  343
   IV  ストリート・チルドレンの日常的実践  349
   V  おわりに  371

第10章 乱立する統括団体と非/合理的な参与
――ネパールのプロテスタントの間で観察された団結に向けた取り組み/丹羽充  377
   I  はじめに  378
   II  ネパールのプロテスタンティズムと統括団体―歴史的概観  381
   III  「真の」代表の座をめぐって  388
   IV  非/合理的な参与  394
   V  おわりに  401

第11章 「包摂」の政治とチベット仏教の資源性
――ヒマラヤ仏教徒の文化実践と社会運動をめぐって/別所裕介  409
   I  はじめに―「仏教」をめぐる政治動態  410
   II  中国の開発資本と「発展のため」の仏教  419
   III  ヒマラヤ仏教徒の文化実践と社会運動  425
   IV  ターニング・ポイントとしてのルンビニ観光年  442
   V  おわりに― HB による文化実践と社会運動  446

第12章 移住労働が内包する社会的包摂/南真木人  451
   I  はじめに  452
   II  移住労働は社会的包摂に寄与するか  454
   III  ネパールにおける移住労働  455
   IV  移民送り出しシステムと仲介者  457
   V  移住労働の実態  465
   VI  社会的送付と社会的包摂  473
   VII  おわりに  479

第13章 多重市民権をめぐる交渉と市民権の再構成
――在外ネパール人協会の「ネパール市民権の継続」運動/上杉妙子  485
   I  はじめに  486
   II  「ネパール市民権の継続」運動の背景  490
   III 在外ネパール人協会と「ネパール市民権の継続」運動  497
   IV  考察 516
   V  結論  519

第14章 現代ブータンのデモクラシーにみる宗教と王権
――一元的なアイデンティティへの排他的な帰属へ向けて/宮本万里  525
   I  はじめに  526
   II  国会と国会議員の役割  529
   III  ポリティクス(政党政治)からの距離をめぐって  533
   IV  デモクラシーと王権  535
   V  市民の権利と宗教者であること  539
   VI  選挙委員会の権限と役割  545
   VII  公共的な空間と差異の政治  546
   VIII  おわりに  550

おわりに  555

索 引  558
執筆者紹介  576


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