イメージの修辞学
ことばと形象の交叉

[著者]西村清和

こ とばとイメージの連関の仕組を総括する────
「読むこと」そして「見ること」で得られるイメージの相違と連関についての議論は古代より続き、いまも多彩な主張が乱立している。それらを精査し、「読書とイメージ」「視覚的隠喩」「小説の映画化」「〈物語る絵〉のナラトロジー」「小説と挿絵」の五つの視点から、ことばと形象の交叉がもたらす経験とその歴史的変遷を、多くの実例をひきながら問いなおす。

[書評]
《図書新聞》2010年3月27日、評者:高山宏氏→図書新聞HPで記事を読む

定価=本体 5,500円+税
2009年11月15日/
A5判/544頁/ISBN978-4-88303-254-9


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[目次]
 序 7
第T部 ことばとイメージ
 第1章 読書とイメージ 12
     1 観念とイメージ 12
          イメージ化の読み/12 近代認識論における「イメージ」/14
          詩と絵画のパラゴーネ/16 詩の絵画的描写/18 バーク/22 レッシング/25
     2 知覚とイメージ 27
          ウィトゲンシュタイン/27 イメージと知識/28 イメージと知覚/31
     3 意味とイメージ 34
          意味の規格型と素性/35 イメージ価と「概念的――ペグ」/37
     4 読書とイメージ 39
          サルトル/40 イメージの「効果」/42 ホメーロスの描写/45
 第2章 視覚的隠喩は可能か  48
     1 転義とモデル 48
          隠喩の代置理論、比較理論/49 隠喩の相互作用理論/50
     2 隠喩と類比 53
          認識論的隠喩論/53 類比による世界認識/55
     3 隠喩と象徴 57
          記号論的隠喩論/57 隠喩的例示/58 暗示と象徴/61
     4 隠喩の述語限定理論 64
          一時的な言語ルール/64 アスペクトの認知/66 述語限定理論/68
     5 隠喩と直喩 71
          比較と同定の陳述文/72 恣意的直喩/74 隠喩の「含み」/76
     6 隠喩とイメージ 78
          隠喩のイコン性/78 非言語的隠喩/80
     7 絵画的隠喩 83
          視覚的ジョークとカリカチュア/83 視覚的駄洒落/86
          合成イメージ/89 広告の発話/92
     8 映画的隠喩 95
          隠喩的モンタージュ/96 映画的文彩/98 説話外的なイメージ/101
 第3章 詩と絵画のパラゴーネ 104
     1 ことばの優位 104
          エクフラシス/104 パラゴーネ/105
     2 イメージの形而上学と解釈学 107
          イコノグラフィーとイコノロジー/107 ベーム「イメージの解釈学」/108
          ベッチマン「美術史解釈学」/111 イムダール「イコニーク」/113
     3 「露出した意味」 115
          バルト「逐字的メッセージ」/116
     4 知覚経験と名指し 118
          ブライソン「図像的なもの」/118 構文的な絵画/121 心理学的唯名論/124
     5 視像の情熱、形態の欲望 126
          位相化/127 言語のテクスチュアと絵画のテクスチュア/128

第U部 小説の映画化
 第4章 物語と描写 132
     1 描写の位置 132
          映画化への欲望と批判/132 補助的言説としての描写/135
          描写の近代とリアリズム/137
     2 テクスト・タイプと「奉仕」関係 139
          「物語に奉仕する描写」・「描写に奉仕する物語」/140
     3 意味の統辞法、知覚の統辞法 142
          明示的な描写/143 モンタージュ――知覚の統辞法/145 描写の物語/147
     4 描写の物語 149
          心的イメージと知覚映像/149 小説の描写/151
          映画の描写/152 「効果」の対比と異同/154
 第5章 語りのモード 156
     1 語りの「態」 156
          物語言説と物語内容/156 「不可視の観察者」と語り手/158
     2 語りの「視点」 161
          〈背後から〉の視点/162 〈ともにある〉視点/165 内面のリアリズム/168
          〈情況〉の視点/173 〈外部から〉の視点/177 物語の叙法のパターン/178
     3 映画における語りの視点 180
          1.〈全知〉の視点、〈情況〉の視点/181
          2.〈ともにある〉視点/185 ● 三人称と一人称/188 ● 「一人称映画」/190
          3.〈外部から〉の視点/191 語りの視点の混合と移行/193

第V部 「物語る絵」のナラトロジー
 第6章 「物語る絵」の叙法 196
     1 絵画の「物語」 196
          タブローという装置/196 絵画のナラトロジー/200
     2 物語言説のメディア――中世の「物語る絵」 202
          ミニアチュール/202 ビザンチンの壁画/205
          ステンドグラス/207 聖なるテクストの優位/210
     3 エクフラシスの修辞学 211
          絵解きとしてのエクフラシス/211 ゼウクシス的イリュージョニズム/213
          イコン的イリュージョニズム/215 超越的な〈全知〉の視点/217
     4 描かれた世界の自立 220
          ジョットの革新/220 「含蓄ある瞬間」/223
          ヒューマニストのエクフラシス/225 アルベルティの「構図」と遠近法/227
          ヴァザーリの美的なエクフラシス/228
     5 指示者のモチーフ 230
          超越論的〈全知〉の視点/230 修辞的イリュージョニズム/232
          美的イリュージョニズム/234 「劇的クロース・アップ」/236
     6 画中の代理人――「母と子」と「後ろむき」のモチーフ 239
          奥行き方向の劇的緊張/239 「母と子」のモチーフ/242
          「後ろむき」のモチーフ/245
     7 美的イリュージョニズム 248
          描写的リアリズム/248 ディドロの美的なエクフラシス/251
          美術カタログ/255 イメージに奉仕することば/257
     8 「没入」のモチーフ 259
          〈情況〉の視点と絵画的描写のリアリズム/259
          没入のモチーフと内面性/262 「演劇的」と「タブロー」/265
     9 仮象論の逆説と〈ともにある〉視点 269
          観者の現前と不在のパラドックス/269 観者の美的な存在情況/271
          肉眼の「視角」と語りの「視点」/273 物語る絵の〈ともにある〉視点/276
          交叉する視線のドラマ/280
     10 情況のタブロー 282
     メロドラマ/282 明暗法――光の遠近法/284 物語る絵の叙法のパターン/286
          1.超越的〈全知〉の視点/287 
          2.超越論的〈全知〉の視点/287 
          3.〈ともにある〉視点、〈情況〉の視点/288
 第7章 近代絵画における語りの視点 290
     1 小説と絵画の遠近法 290
          ケンプの受容美学/290 「観者の位置」に自覚的な構成/290
          「多重遠近法的」な構成/292 小説と絵画のパラレリズム/294
     2 目撃者の「視角」と語りの「視点」 299
          語りの「態」と「叙法」/299 目撃者と「内包された読者」/300
          カメラマンと映画監督と画家/305
          指示者のモチーフ、後ろむきのモチーフ/306
     3 〈ともにある〉視点の画面構成 309
          エッグ《過去と現在》/309 クリンガー《母》/312 スケッチの美学/314

第W部 小説と挿絵
 第8章 近代小説と挿絵 318
     1 挿絵の歴史 318
          十五世紀/319 十六世紀/320 十七世紀/321 十八世紀/323 グラヴロー/327
     2 形象のディスクール――グラヴロー 330
          ルソー『新エロイーズ』挿絵/330 挿絵の記号論的分析――バシィ/333
          語りの光源・サン=プルー/336 読者の反応――ラブロスの分析/338
     3 私的な情感――コドウィエツキーとストザード 340
          コドウィエツキー/340 ストザード/343
     4 近代的叙法の成熟 346
          ターナー――廃墟・ゴシック・ピクチャレスク/346
          ビュイックとクルックシャンク――ビネット/348
          小説の挿絵と舞台のタブロー/351 挿絵の映画的手法/352
          ラファエル前派/355 内省の挿絵に対する批判/357
 第9章 明治期小説の「改良」と挿絵 361
     1 小説の「改良」 361
          坪内逍遙『小説神髄』/362 内面のリアリズムと文体/365
          制度としての漢文体/368
     2 『当世書生気質』 370
          新味と限界/370 二葉亭四迷『浮雲』/374
     3 言文一致運動 377
          語尾と待遇感情/377 「である」体の採用/379
     4 逍遙以後の小説 381
          「人間派」と「没理想」/381 西洋近代叙法の例外的さきがけ/383
          「自叙躰」の流行/385 三人称〈ともにある〉視点の確立/390
     5 日本における「物語る絵」 393
          絵巻の文法/393 江戸の戯作本/396 洋風画/398
     6 戯作下絵から小説挿絵へ 400
          来日画家の影響/401 洋風挿絵受容の限界/404 新聞小説と挿絵/407
          浮世絵系挿絵/409 容斎派の画家たち/412 洋画家たちの参入/413
     7 小坂象堂と自然主義 415
          日本画の自然主義/415 无声会/419
     8 梶田半古と新風 422
          烏合会/422 梶田半古の日本画/424 富岡永洗と梶田半古/426
          右田年英と松本洗耳/429 新旧挿絵の混在/431 梶田半古とアール・ヌーボー/433
     9 鏑木清方の小説経験 437
          西洋画の翻案/438 情況のタブローと〈ともにある〉視点/441

 註 445
 あとがき 509 
 事項索引 1
 人名索引 7
 参考文献 13


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