市場のための紙上美術館
19世紀フランス、画商たちの複製イメージ戦略

[著者]陳岡めぐみ

19世紀後半、創刊相次ぐ美術雑誌や競売カタログの紙上を飾ったエッチングによる複製版画は、当時の絵画趣味にも叶い、制作もスピーディー、版画としての価値もあるとしてもてはやされた。だがその背後には、「複製エッチング」を戦略的に利用することで作品の価値を相互に保証しあう、画商・批評家・コレクターたちの思惑が隠されていた――。
偽名・筆名を巧みに使い分けた、“戦略”の急先鋒、ベルギー人画商レオン・ゴシェの実像に迫りつつ、国際的な絵画市場形成期における蒐集・取引の内幕をあきらかにする。

[受賞]
第27回渋沢・クローデル賞・ルイ・ヴィトンジャパン特別賞

[書評]
《読売新聞》「渋沢・クローデル賞 受賞者の横顔(2)」、2010年8月3日

定価=本体 4,000円+税
2009年6月1日/
A5判上製/400頁/ISBN978-4-88303-244-0


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[目次]
 序章 19世紀の複製エッチング再考 9
     新たな美術システムの形成と複製エッチングの役割 9
     複製エッチング―エッチング・リヴァイヴァルの徒花? 11
     エッチング・リヴァイヴァルの「リヴァイヴァル」 17
     複製版画と創作版画 19
     複製エッチング再考 22

第T部 19世紀フランスの複製エッチングとその背景
 第1章 絵画の蒐集・取引における複製エッチングの役割   31
     サロンを出発点に 31
     『ガゼット・デ・ボザール』と『ラール』 42
     画商デュラン=リュエル、ジョルジュ・プティ、グーピル 46
     『ガゼット・デ・ボザール』 50
     ブルジョワ・コレクターのための「エレガントな篩」 58
 第2章 複製技法としてのエッチングの性質と意味――光と色彩の翻訳者 65
     「現代の偉大なる真の解釈手段」――エッチングと風景画 65
     印刷出版市場との結びつき 72
     機械複製と手製複製――「ヴァルール」をめぐって 80
 第3章 レオポル・ドゥーブルと紋章型エクスムゼオ(蔵品印)のシンボリズム 
 ―― 複製エッチングと美術愛好家 91
     テオフィル・トレとポール・ラクロワ 94
     トレ=ビュルガーのフェルメール・キャンペーン 104
     版画家ジュール・ジャックマール 110
     18世紀への憧憬 115
     紋章型エクスムゼオにこめられた意図 124

第U部 レオン・ゴシェと絵画のための「イメージ」戦略
  プロローグ メセナと絵画投機、ウィルソン・コレクションをめぐって 131
 第4章 画商/批評家レオン・ゴシェ、あるいは美術愛好家にして投機家、投機家にして美術愛好家 146
     実業界から絵画取引の世界へ 146
     ポール・ユエのエッチング集――トレとの出会い 157
     トレ=ビュルガーの遺産――フェルメールをめぐって 161
     画商/批評家 166
     画商/美術愛好家 181
第5章 市場のための紙上美術館――複製エッチング集『メトロポリタン美術館』(1871年) 185
     メトロポリタン美術館の最初の絵画購入と出版計画 187 
     美術館と複製イメージ 194
     ゴシェの役割 198
     「大西洋の向こう側の美術館」――17世紀オランダ・フランドル絵画の市場形成をめぐるサークル 207
     絵画市場のための紙上美術館 212
 第6章 越境する複製イメージ――複製エッチングと競売カタログ 218
     『ガゼット・デ・ボザール』とエッチング挿絵入り競売カタログ 227
     投機的競売のメカニズム 234
     画商とコレクター 240
     第四の偽名 244
     キャンペーンの仕上げ ―― 挿絵入り競売カタログの役割 247
     越境する複製イメージ、あるいはイメージ戦略の網 255
 第7章 『ラール』再考 ―― ブルジョワジーのための美術雑誌、あるいは産業への芸術の応用 257
     反アカデミスム ―― 『ラール』創刊 259
     第三共和制期初頭の美術行政の流れと『ラール』の活動 263
     サロン民営化へ向かって 266
     産業への芸術の応用 270
     過去の芸術遺産の継承と現代への応用 281
     ブルジョワジーのための美術雑誌 288
結び 291

 註 295
 あとがき 343
 人名索引 1
 主要文献一覧 6
 関連年譜 28
 付録 ―― 『ラール』装丁版の表紙一覧 34
 Resume 50


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