西洋美術研究
No.3 特集「イメージの中のイメージ」

2000年3月31日発行
●本体2900円+税

2000年3月/A4判変型並製/212頁/ISBN978-4-88303-064-4

English


まえがき

木俣元一

自身について語るイメージ

 

論文

 

アンドレ・シャステル
木俣元一・三浦篤/監修 画中画研究会/訳 三浦篤/解題

絵の中の絵

15世紀から20世紀にいたる西洋絵画史において「絵の中の絵」は重要な機能を果たした。ルネサンスに成立した「客観的」な絵画空間の中に、現実的なモティーフとして挿入された画中画は、図像的、様式的、象徴的等々、複雑な意味を担い、17世紀にひとつの頂点に達した。19世紀以降、絵画空間が「主観的」なものに変貌するにつれ、このモティーフは新たな展開を見せることになる。


木俣元一

シャルトル大聖堂のステンドグラスにおける聖像と偶像
1200年前後のカトリック教会とイメージ

13世紀初頭に制作されたシャルトル大聖堂のステンドグラスには、多数の偶像表現と聖像表現が登場する。本論文は、これらについての詳細な考察を通じて、1200年前後の西欧カトリック教会における、イメージに対するさまざまな態度やその歴史的背景を明らかにしようとするものである。他者との対比という文脈での偶像と聖像の扱い、原型と模像に関する理論、プライヴェートな祈念におけるイメージの使用などの問題点を取り上げる


リオネッロ・プッピ
京谷啓徳/訳

「ヴェネツィアは他の土地とは異なった方法で作られた」
14世紀から20世紀までのヨーロッパの文学・美術にみられる「ヴェネツィア神話」

水都ヴェネツィアはその立地、創建の特殊性より、他のいかなる土地とも「異なっている」ということが強く意識された結果、この町は神の意志によって作られたのだという「ヴェネツィア神話」が生み出されるに至った。そしてその神話は都市の形態に反映していると考えられ、文学および美術における都市のイメージの中にも表現された。本稿は、このことをふまえ、ヴェネツィアの都市のイメージの変遷を、ヨーロッパの文学と美術の中に探っていく。


秋山聰

「芸術家としての神」から「神としての芸術家」へ
芸術家による自己イメージの形成をめぐって

ドッソの《ユピテル、メルクリウスと美徳》では、神が画家として表現されている。このように神を画家や建築家など芸術家もしくは工匠にたとえるトポス(deus artifex)は古代にすでにみることができるものである。その歴史的展開を概観した上で、逆に芸術家を神にたとえるトポスの生成をさぐり、アルプス以北における造形上の早い事例としてデューラーの《1500年の自画像》を、「自己成型」の概念を援用しながら、分析する。


越川倫明

フィレンツェ、ヴァザーリ邸に描かれた古代芸術家伝説

ヴァザーリはフィレンツェの自邸に、プリニウスの『博物誌』に基づく古代の芸術家伝説の諸場面を装飾として描いた。本稿は、ヴィンチェンツォ・ボルギーニが著した絵画彫刻比較論をめぐる手稿『セルヴァ・ディ・ノティツィエ』(1564)との関連に注目することによって、未解決の解釈上の問題に回答を見い出すとともに、ヴァザーリの装飾が絵画芸術の普遍的表現力を称揚する明確な意図を含んでいたことを指摘する。


松原知生

タブローの中のイメージ
16・17世紀シエナにおける「絵画タベルナークルム」の展開

中世期の礼拝画を近代の祭壇画の中央に嵌め込むことで成立する「絵画タベルナークルム」は、シエナでは16世紀前半に、古画を納めた大理石製祭壇の延長上に誕生した。その後、ロザリオ信心会の創設、《プロヴェンツァーノの聖母》崇拝の高まりなどに象徴される、対抗宗教改革期的な心性を背景に隆盛をみる。だが、17世紀後半にローマからもたらされた壮大なベルニーニ的祭壇彫刻の流行を前に、同ジャンルは衰退せざるを得なかった。


グレゴール・J. M.ヴェーバー
小林頼子/訳・解題

フェルメールの画中画の用い方:新たなるアプローチ

17世紀オランダ絵画に登場する画中画には単なる装飾以上の役割があるが、その解釈の方法についてはこれまでエンブレマータ援用法が提唱されたにとどまる。必ずしも十全とはいえぬその議論に代わり、新たに修辞学理論、なかでも範例と比喩という考え方に注目すると、主要場面と画中画との関係を解明するのに大いに役立つ。但し、両者の関係を未決定にしておくフェルメールの画中画使用法には他の画家と一線を画するところがある。


村上博哉

シュルレアリスムと画中画
マックス・エルンストを中心に

20世紀初頭に再現描写の原則が崩れることにより、画中画の役割は変質した。デ・キリコの形而上絵画や、その影響を受けたダダとシュルレアリスムの画家たちの作品においては、しばしば現実と虚構の関係を意図的に混乱させるために画中画が用いられた。エルンストは画中画を通じて、内的イメージの獲得から蒐集、展示に到るまでを表現した。ギャラリー画の系譜に連なる《天使の声》は、画中画の集積による彼の半生と芸術の総覧である。

 

文献リストと解題

 

書評

黒岩三恵

Michael Camille, The Gothic Idol: Ideology and Image-Making in Medieval Art


三浦篤

Pierre Georgel, Anne-Marie Lecoq, La Peinture dans la Peinture


中村俊春

Victor I. Stoichita, The Self-Aware Image: An Insight into Early Modern Meta-Painting

 

展覧会評

新畑泰秀

「プッサンとラファエッロ―借用と創造の秘密―」展


浦上雅司

「ピエトロ・ダ・コルトーナ」展

 


村山紀子

「ドーミエ」展


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