西洋美術研究
No.2 特集「美術アカデミー」

1999年9月20日発行/p.228/本体2900円
●本体2900円+税

1999年9月/A4判変型並製/200頁/ISBN978-4-88303-060-6

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まえがき

森雅彦

アカデミー/アカデミック/ペヴスナー

 

論文

 

森雅彦

アカデミア・デル・ディセーニョの理念と現実
形成期の素描アカデミーをめぐって

同信会の改組の上に、1563年に設立された西洋美術史上最初の「公的」アカデミーは、その初発期において、「現実」の諸問題から慣習的=妥協的組織とならざるを得なかった。とはいえ、彼らはアカデミーの革新性をも意識しており、その「理念」と『美術家列伝』の芸術イデオロギーは強い平行性を示す。ティーチング・システムはなお断続的なものだったとはいえ、解剖学を始めとする幾つかの試行はあり得たと推測せねばならない。


尾崎彰宏

カーレル・ファン・マンデルのポリティーク
〈アカデミー〉と絵画の栄光への戦略

カーレル・ファン・マンデルは、絵画の栄光によっておのれの文化を不朽のものとした。その絵画戦略上のキー概念が、〈アカデミー〉である。画家兼美術理論家であった彼は〈アカデミー〉の表象を用いて、イタリアに対抗する新しい文化を創造し、来るべき時代の芸術のヘゲモニーを掌握しようとしたのである。オランダにおける〈アカデミー〉の黎明期に的を絞り、機略家ファン・マンデルの芸術的・政治的な理念を描きだす。


ジョナサン・ブラウン
岡田裕成/訳

17世紀スペインの絵画アカデミー

イタリア系画家の主導のもと、スペインでも16世紀末以来、芸術アカデミー設立への関心が高まった。とりわけビセンテ・カルドゥーチョは、王権を背景にした強力な組織をもつアカデミーの野心的な構想を提起する。けれどもそのエリート主義的な企図は、伝統的な職業画家の利害と衝突したがゆえに頓挫せざるをえなかった。彼の構想がスペインで実現するのは、次世紀のサン・フェルナンド王立美術アカデミーにおいてである。


栗田秀法

王立絵画彫刻アカデミー
その制度と歴史

フランス初の美術アカデミーは、画家・彫刻家組合と王の勅許状を受けた芸術家たちの対立から生じたが、それは同時に絵画が知的な所産であることを前面に押し出す前衛的な運動でもあった。絶対王政の確立後、王の御用機関として権威を確立する一方、その後の王権の弱体化と眼の悦びを尊ぶ美術愛好家の増大の中で変質を被る。18世紀半ばから教訓的な歴史画の優位が主張され、アカデミーは再び求心力を獲得した。


尾関幸

ベルリン王立美術アカデミーの歴史

1696年に創立されたベルリン王立アカデミーは、1800年前後に施行された改革によりドイツ語圏で最も近代的な美術教育システムを完成させたが、その過密な教育カリキュラムは学生離れの原因ともなった。語義においては自由な美術家の結社である美術アカデミーが、機械的な訓練の場となった時、その存在の矛盾が露呈する。1875年のベルリン芸術大学創立は、美術アカデミーの19世紀的役割の終焉を意味しているのである。


宮崎直子

ロイヤル・アカデミー
設立とその基本的理念について

1768年、作品発表の場と系統だった美術教育を提供する目的で当代の芸術家たちによって設立されたロイヤル・アカデミーは、財政および運営面についてはあくまでも独立性を保ちつつ、芸術に関わる諮問機関として、その「公」の責任を自覚し、かつ期待されていた。初代総裁レイノルズが提唱した歴史画の伝統は根づかなかったが、展覧会人気は芸術家の社会的認知度を高め、また芸術に対する国民的関心を喚起し、美術市場全体を活性化した。


三浦篤

19世紀フランスの美術アカデミーと美術行政
1863年の制度改革を中心に

19世紀フランスの美術アカデミーは、美術学校、ローマ賞コンクール、サロンなどの諸制度を掌握することで、美術界を一元的に支配した。しかし世紀後半になると、美術アカデミーの特権を奪って芸術の自由化、民主化を推し進めようとする美術行政との間に激しい葛藤が起こる。その象徴的な事件が第二帝政期の1863年に起こった美術制度改革であり、第三共和制期にも両者の闘いはさまざまな形で継続されるのである。


原典資料紹介

森雅彦/解題・訳

フィレンツェ素描アカデミー条項規定集(1563年1月)


岡田裕成/解題・訳

マドリードの素描アカデミー設立のための趣意書・会規案(1624年)


小佐野重利/解題・監修
アカデミー古文献研究会/訳

シャルル・ル・ブラン『感情表現に関する講演』


中村俊春/解題・訳

風景画の制作
ヨアヒム・フォン・ザントラルトの『ドイツのアカデミー』より

 

美術アカデミー文献リストと解題

美術アカデミー関連年表

 

書評

島本浣

Paul Duro, The Academy and the Limits of Painting in Seventeenth-Century France



阿部成樹

Amaury-Duval, L'Atelier d'Ingres: presente et annote par Daniel Ternois

 

展覧会評

駒田亜紀子

「呪われた王の時代の美術:フィリップ美王とその息子たち」展


松原知生

 

「デッラ・ロッビア一族と施釉彫刻の〈新たな芸術〉」展



喜多崎親

「ギュスターヴ・モロー」展


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